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1995年。現代美術家として作品を発表していた高井吉一さんは、展示後の作品置き場兼作業場として、この石田倉庫NO.3の1階を借りました。その当時作っていたのは、多摩川で拾った3,000本もの流木を床に並べていろいろな角度で見渡せるようにするという、とても大掛かりなインスタレーションで作品でした。

[左]「水中の森」(1994)Gallary Nikkoにて展示
[右]「記憶の森・記号の城 ―スウィート・ホーム」東京野外現代彫刻展出品

そして2015年。高井さんは同じアトリエで、オーダーメイドの鉄を中心とした金工造形の他、古美色と言われる伝統工芸の技法を施した金属製の鉛筆型ボールペン「TETZBO」シリーズの製作を行っています。大きなインスタレーション作品を作っていた作家さんがなぜ、今、小さなボールペンを作っているのか。気になりますよね。
[左]『チビエン』 [右]キャップ付き鉛筆型ボールペン『アルティメット』

「このTETZBOシリーズを作るようになったのは、ここ3年くらいかな。これから先、体力的にも大きいものを造ることが難しくなるだろうって思ってね。ちゃんと自分に向き合えて、人と思いを共有出来るようなもの、自分にしかできないこと…って何だろうって思って。」機能だけじゃなくて、きちんと心に残るもの。
「ちびた鉛筆って、何故か捨てられないんですよ。もしかしたら、『チビエン』は記憶や思いの扉を開ける鍵のようなものかもしれない…と思ったんです。しかも、万人に共通のmaster key…」

そして、蔵前の文具店「カキモリ」の店主広瀬さんとの出会いもあり、改良を重ね、小さくても手に馴染んでなめらかな書き味のボールペンが誕生しました。

「僕は文房具のマニアでもないし、まして専門家ではないから、形は出来ても製品として成立するための基本的な知識がなくて…。そこで、広瀬さんに専門家としてのアドバイスを戴き、なんとか製品として形になりました。」


[上]立川 富士見保育園 スライド式門扉全景
[左下]ステンレスを叩いて作った留め金にもTETZBOの刻印。
[右下]手描きでおこしたイメージ画
オーダーメイドの作品として、最近納品したのが、この富士見台保育園の門扉です。園長先生からのオーダーは、「高井さんの好きにやってください」というもの。高井さんは、「この保育園で育ったことが誇りになるようなものにしたい」と、手で一からイメージ画を描きおこしたそう。色とりどりのかわいいガラスがはめこんである夢がいっぱいの町並みは、子どもたちの毎日の登園を楽しく演出してくれそうです。



最後に、ポートレートを撮らせて頂こうとしたら、ちょっと照れくさそうにポーズを取ってくださった高井さん。「僕ね。器用なんですよ。悪い意味で…。これしか出来ないというものはなくて、不幸なことにこれまで、大概のことはあまり苦労せずに無難にこなして来た…だから何も出来ていない。それで60歳越えてから、もう少し自分にちゃんと向き合ってやらなくちゃいけないのかなって思って。ほんの少し真面目に生きて行こうと思ってね。今まではそのことが出来ていなかった。自分にとっての正義って何だろう。いい年してこんなこと言うのも何だけど、近頃はそう思う。」

高井さんの遊び心と職人としての粋な技が詰まったTETZBOシリーズは、アトリエ展でも展示販売予定です。

高井さんのHP(http://tetzbo.zero-yen.com
TETZBOの取扱店「カキモリ」のHP(http://www.kakimori.com
(文責:小林未央)
- - - - - - - - - - - - -<追記>2015年 アトリエ展の様子- - - - - - - - - - - - - 
一ご自身の作品展示と併せて、奥様のジュエリーの展示もありました
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「赤ビル」とよばれる建物の2階。竹下千鶴さんは、1つの部屋を4人でシェアして机を置き、絵画教室での仕事の合間に、ここで作品づくりを行っています。絵画教室では、幼児から小学生を中心に、絵画から工作まで幅広い造形や制作を教えているそうで、ちょうど、机の前の壁には、これから子どもたちに教えるという教材の試作品も飾られていました。


[左]「羊のケイト」F4号(333×242)パネルに紙、アクリル絵具
[右]「ドローイング(ケイトのイメージ)」F0号(180×140)パネルに紙、水彩、色鉛筆


「これまでは自宅で制作していたのですが、働きながら絵を描くという環境を、とにかく変えたかったんです」と、3.11のあと石田倉庫に入居した竹下さん。「教えるだけではなくて、自分もきちんと制作している場所を持っていることが大事なのでは」と、アトリエを探していた時、ちょうどこの部屋のシェアの話があったのだそうです。

大学では油絵を専攻。現職の前に1年間、小学校の補助教諭をしていたことも。補助教諭のお仕事では、教科に関係なく子どもたちに、算数や体育など、どちらかと言うと苦手な子が顕著で、子どもたちへの手が多く必要な教科の補助にあたっていたそうです。
この経験のおかげで、はじめは「子どもが苦手」だと思っていたのが、子どもたちと接する時間が増えるにつれ、子どもに造形を教えるという仕事が「自分に合っているかも」と思うように。
「小学校で美術を教えることに目覚めたというか、子どもに接することに目覚めた感じ。お。私、意外と子どもいけるな。絵画教室の先生になってみようかしら」と。
こうして、竹下さんは「作家」として制作中心の仕事ではなく、子どもたちに「教える」という形で美術に携わる、今の仕事を選んだのだそうです。



「これ、紙粘土にはじめに絵の具を混ぜて色の粘土を作ってから、成形しているんですよ。この手法、実は絵画教室で知った方法なんです。」と、今年のアトリエ展の展示作品の一部を見せて頂きました。まるでマジパンのかわいいお菓子みたいに並ぶクマさんたち。
「わたし、動物が好きで。最近は、よくクマを描くんです。自分に似てるのかな。教室の子どもたちにもよく言われるんですよ。」ゆっくりとおだやかにお話してくださる竹下さんが、額の中からこちらを見ているクマさんに重なります。


[左]「くつした」(2011年のアトリエ展出品作品)
[右]「鳥」(2014年のアトリエ展出品作品)

ちなみに、2011年はステレンボードにアクリル絵の具で作った「くつした」、2014年は「鳥」をテーマに水彩画と紙粘土で作ったマグネットを展示販売。その年ごとにテーマを決めて制作なさるそう。制作物も、身近な素材を使った親しみやすいものを使っているのは、子どもたちに造形を教える竹下さんならではのもの。今年も「普段のアトリエ」に近い形で、クマさんシリーズの作品の展示販売を行うそうです。
残念ながら竹下さんのホームページはありませんが、講師をなさっている「子ども美術教室がじゅく」のホームページに、竹下さんから子どもたちへのメッセージがあります。子どもだけではなく大人の心にも届く文章です。下記に一節を抜粋します。


自分の好きなもの(事)をひとつでもいいからもってほしい。
絵の先生のくせにこう言ったら怒られちゃうかもしれないけど、絵を描くことじゃなくてもいい。サッカーでも野球でもいい。歌でもダンスでも虫を憶えることでも、動物を世話することでもなんでもいい。
おそらくそれが自分の中で(自分の生きていく中で)支えになるから。
私がそうだったから。今でもそうだから。



全部読みたい方はこちらをどうぞ。(外部リンク:「子ども美術教室がじゅく/講師紹介ページ」http://www.gajyuku.com/staff/chihiro/chihiro_takeshita.html

アトリエ展では、クマさんと竹下さんが、みなさんをお待ちしています。


(文責:小林未央)




- - - - - - - - - - - - -<追記>2015年 アトリエ展の様子- - - - - - - - - - - - - 





「AR,TEE'S(アーティーズ)って、アトリエ見ただけだと何をしてる人たちなのか分かんないでしょ?」と代表の伊藤卓義さん。この日のアトリエは、アートワーク制作中のコーヒーショップの店内装飾用資材が入った段ボールの山でいっぱい。伊藤さんとスタッフの福本壱美さんは、テキパキと資材の仕分け作業なさっていました。

「でね、こんな感じのことをやっててね..」と、見せて頂いたのが、ショップや飲食店の空間や壁画、什器などの写真でした。写っていたのは、日本だけではなく、フランス、イタリア、アメリカ、レトロやモダン、はたまた近未来といったイメージの、実に多国籍で多種多様の世界。下の写真はその中の1つで、イタリアンのレストランを、ポルトガルのレストランに改築するという案件のもの。同じ空間が、色使い、装飾、照明、壁画などのあしらいの違いで、こんなに変わるんですね。

[左]施工前のイタリアンレストラン [中央] 伊藤さんのメモ。クライアントの要望をヒアリングしながら、イメージをスケッチにおこしていく。[右] ポルトガルレストラン『ヴィラモウラ』に生まれ変わった外観と店内


AR,TEE'Sとは、Artfact(文化的価値のあるもの)を Artistic(優れた技)で Expression(表現する)の造語だそう。「僕たちの仕事は、コンセプトや世界観を持っているクライアントの希望イメージを汲み取り、それぞれのオーダーに一番ふさわしい表現を考え、提案し、形にすることかな」。と、伊藤さんはさらりと言葉になさいましたが、実際には、センスや知識だけではなく、ありとあらゆる世界観を具現化するための経験と技術、そしてそれぞれの分野に長けた人脈がないと出来ないお仕事のはず。


気仙沼、千葉喜商店のみなさんと (撮影:山上一郎/木とり) 

「石田倉庫には様々な分野の専門家がいるからね。仕事はもちろん、こんなことも一緒にできました。」と伊藤さんが見せてくださったのがこの写真で、3.11の震災後、気仙沼で被災した商店へ看板を寄贈した時のものです。被災地に何か出来ないかと思っていたとき、アトリエ内の山上一郎(木とり)さんの紹介で出逢ったというこちらの商店は、建物も崩壊、従業員の方を亡くされるという辛い状況の中、復興に向けて取り組んでいたそう。伊藤さんは「自分たちに出来ること=何かを表現すること。気仙沼港=出航、門出=大漁旗」という発想から、復興祈願の大漁旗をモチーフに看板を造り、直接現地にお届けしたのだそうです。



アトリエ展では、毎年、国をテーマに(8年中国、9年モロッコ、10年スペインと)した屋台を制作。13年からは、アーティーズを前面に出すように。写真は2014年のもの。

さて、そんなAR,TEE'Sが、今年のアトリエ展で行うのは、ここ数年恒例の屋外での屋台出店と、版画や帽子の展示販売です。「アトリエ展はね、お客様にふるまいながら自分たちも楽しむもの。」と、伊藤さん。イベント屋台とはいえ、立派なショップブースなのはAR,TEE'Sならでは。さすがですね。

[左]「TATUWA」写真(キャンバスに印画紙圧着)、油性ニス、
水性塗料(H 2400 x W 1800 mm)/伊藤卓義
[右]「回遊-2(部分)」メゾチント/福本壱美

そして、アトリエ内では、仕事の合間にそれぞれが、個人的に描いた作品の展示も予定しています。福本さんは、銅版を直接刃物で削っていく作業が好きで、銅版でも特にメゾチント技法で作品づくりをしているとか。

AR,TEE'Sについてもっと知りたい方は、事例紹介の豊富なホームページ(http://www.artees.jp)をどうぞ。ちなみに、毎週月曜日の朝にアップされるブログの担当も福本さん。銅版画の作品とも違ったテイストのイラストは、毎回ほのぼのとたのしい逸品です。ぜひご覧くださいね。(文責:小林未央)

「TATUWA」写叔父さんの似顔絵/福本壱美

- - - - - - - - - - - - -<追記>2015年 アトリエ展の様子- - - - - - - - - - - - - 







蔦の絡まるアトリエNo.3の2階、ガラス作家の寺西さんとシェアしているというアトリエの奥に、安東さんの作業机があります。机の上には、まだ加工されていない銅板、作業途中のキノコの部品、それからスケッチ画やペンチやピンセットなどの道具が並んでいました。ここが安東さんの作品が生まれる場所です。


「銅は、緑錆(りょくしょう)といって、表面の酸化によって色が変わるんですよ。」と安東さん。10円玉色の銅板を叩いて伸ばして、バーナーで熱しながら曲げて溶接して、形にしていきます。バーナーの炎の熱でみるみる色の変わる銅。さらに熱した銅を水につけるとジュッと音がして、色が赤褐色に変化しました。この色の出方は偶然のものなのだそうです。それもまた銅板造形の魅力のひとつなのだとか。バラバラだった部品が安東さんの手によって、あっという間にキノコの完成。まるで魔法のような作業です。

『ほしわたり』素材:銅・木パネル・アクリル/サイズ:650×800×60mm

大学に入るまでは、単純に絵を描くのが好きだった安東さんが、銅という素材とその表現の面白さに出会ったのは、大学に入ってからだそうで、今年の6月末には、最初に個展を開いてから10年の節目の個展「夏至」を開いたばかり。この個展では、自作フレームドラム奏者の久田祐三さんの楽器の一部を作るという実験的コラボレーション作品も展示したのだそうです。

[左]On my way home I remember only good days
[中央]みんないってしまう[右]Hello Hello 

安東さんの手仕事から生まれるのは、空間を装飾する大きなレリーフもあれば、絵本の世界からひょっこり飛び出してきたような、小さな不思議で可愛い動植物の小さな作品もあります。安東さんは、歌や詩、小さかった頃に読んでもらった絵本など、自分が出逢った好きな言葉を書き留めておいて、そこからイメージをふくらませて作品を作るのだそうです。
例えば、「On my way home I remember only good days」は、歌詞からイメージして生まれたもの。作品を見ているうちに、夕焼け空の下、ハナウタを歌いながら、自転車をこいでいる自分が見えてきます。そして、家への帰り道は、たしかに楽しかったことしか思い出さないなぁと、心の奥が懐かしいような、愛おしいような気持ちになります。
と、そんな感想を抱いた私に「作品と心が通じたのかもしれないですね」と、安東さん。「作品と心が通じる」っていう言葉も、なんだかとっても居心地よく心に響きました。

ワークショップで造形体験できるピンバッジ

安東さんはアトリエ展では、作品の展示と販売、ワークショップを予定しています。ワークショップでは、数種類の型のアルミのベースに、金槌で銅や真鍮のメッシュを叩いて模様を打ち付けて作るオリジナルのピンバッジを作るそうです。世界に一つの銅板の手づくりピンバッジ、素敵ですよね。

もっと作品を見たいというかたは、ホームページ(http://keiando.com/index.html)でもご覧になれます。そして、安東さんの銅板造形を体験してみたい人はぜひ、アトリエ展へ遊びにきてくださいね。
(文責:小林未央)



- - - - - - - - - - - - -<追記>2015年 アトリエ展の様子- - - - - - - - - - - - -







「風が気持ちいいな、とか、木漏れ日がきれいだなとか、誰もが感じる共通の“何か大きな美しいもの”を形にしたくて。」と、静かにやさしくお話をしてくださる槇島さん。彼女の作品が並ぶアトリエに入ると、部屋の中にいるのに、キラキラとした気持ちのよい明るい光や、木々の緑や爽やかな風を感じます。


「風来」F120号・キャンバス、油彩 2012年制作

槇島さんの作品のモチーフは、太陽の光、植物、樹木、水面など自然のもの。「自然の中にある現象を、自分の記憶や内面や無意識下にある“イメージ”とを重なり合わせて描く」のだそう。彼女の作品の前に立った時に感じる感覚は、自分がいつの日かに出会った“何か大きな美しいもの”の記憶が呼び起こされたものなのかもしれません。


「ディスタンスについて」F20号・キャンバス 油彩
2011年制作 個人蔵
槇島さんは、2011年、東日本大震災の大きな揺れの中で「本格的に始めないと」と心を動かされ、石田倉庫のアトリエに入居を決めたのだそうです。「自分がピンチになるほど、自分のビジョンが見えて来るんですよね。地震があって、人間も自然ですし。日常と自然、自分に出来ることで、それらを良くして行こうと思って。」この作品は、アトリエに入って初めて手がけたもの。
2015.07.26-08.23 「森のみる夢」
インスタレーション作品 国営昭和記念公園花みどり文化センター
そして、上の写真は、今年の8月に昭和記念公園花みどり文化センターで開催された「森の見る夢」のインスタレーション作品。インスタレーションとは、空間を作品で構成し、作りながら変化させ完成させていく現代美術における表現手法の一つ。お絵描きワークショップでは、子どもたちも一緒に、森のみる夢を想像して描いた絵を象り、透明なプラバンに写し切り取って、真っ白なオーガンジーの布に貼付けて制作した大作です。




現代美術というと、一瞬ちょっと難しそうという先入観があるかもしれませんが、槇島さんの作品については、頭で考えなくても、心で感じることのできる“あたたかさ”があります。その作風から、友人知人から依頼を受け、新居や赤ちゃんのお誕生のお祝いの絵を描くこともあるそう。「新しく始まる記念日なので、私の絵から、明るさやあたたかさを感じて頂けたら…」
2014.12.06-07「お絵描きの森ワークショップ」
石田倉庫オープンアトリエ「てのしなしな」 /石田倉庫屋外会場
最近では「自分に出来ることを媒体に、大人も子どもも表現が楽しめる場づくり」を行いたいと、ワークショップや教室も、積極的に開いているのだとか。昨年のオープンアトリエでも、屋外にお絵描きの森を設置。大人も子供もみんなで絵を描いて、画用紙をちぎって貼りつけるなど「手」をつかって楽しむワークショップを行いました。


槇島さんのホームページ(http://aimakishima.web.fc2.com)でも作品をご覧頂けますが、ぜひ、アトリエ展で、実物の大きな作品の前で、色と光、そしてあたたかを感じてみてくださいね。
(文責:小林未央)

 
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